久里浜医療センター

WHO (世界保健機関) アルコール関連問題研究・研修協力センター

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国際交流 韓国のネット事情

韓国レポート:訪韓 平成23年6月1日〜3日
樋口 進(医師) 三原 聡子(臨床心理士) 前園 真毅(精神保健福祉士)

韓国のネット依存に対する取り組みは世界的にも先駆的で、日本より10年先を進んでいるといわれている。
当院は、WHO研究・研修協力センターとして各国との交流を図ってきた。今回、当院に2006から08年まで留学していたRohソウル国立病院部長(Sungwon Roh: Seoul National University College of Medicine and Hospital)のコーディネートにより韓国のネット依存に取り組む国家機関、行政機関、大学病院などへ韓国のネット依存の現状を把握するための見学が実現した。

Ministry of Gender Equality & Family (韓国女性家族部)

Sung Byuk Kim, PhD (Director, Division Youth Media Environment, Ministry of Gender Equality & Family, 韓国女性家族部青少年メディア環境課長)

韓国の国家行政機関(部処庁/15部2処18庁:日本の省庁)の一つである「女性家族部」のキム氏を訪問。女性家族部は、女性の人権問題を代弁し、家庭の安定のために政策を立案する機関。我々は、7年間にわたり、ネット依存の子どもを持つ親たちからの相談やオンラインゲームの社会問題に取り組んできたキム氏に話を伺った。

キム氏によると、ネット依存の問題は2004年頃からネットの長時間利用が原因とされる死亡(エコノミークラス症候群、心不全、自殺など)が社会問題として表面化(04年10件、内4件が未成年)。それに対し、05年政府は、National Youth Protection Commission(以下「NYC」と略、国家青少年保護委員会)を設立し活動を開始した。
「NYC」はネット依存の治療方法について4つの病院に治療モデルの構築を要請(ソウル大⇒重複障害の治療、ハンナン大⇒個人精神療法、ヨンセイ大・チュンアン大⇒集団療法・家族療法といった)。結果を踏まえ06年はじめに小児精神科医らの学会にてネット依存の定義付け、症状、他の疾患との違いについてワークショップを開いた。「NYC」は国内にある128の「Youth Counseling Center(YCC)、青少年相談センター」をネット依存の相談センターとして指定した。07年に国は、相談センターが把握、心理検査やモニターなど(K-CBCL/K-YSR)で必要と認めケースを指定病院へ紹介し治療を受けることができるように1ケースあたり30万〜50万ウォンの対策費を予算化した。
また、女性家族部に24時間のホットライン(「1388」)、「Rescue School」と呼ばれる11泊12日のキャンプをはじめた。また市民への啓発事業を行っている。
さらに、韓国政府は青少年のオンラインゲーム依存を予防するために、今年(2011年)11月から、「シャットダウン制度」を導入する。ネットにアクセスする者には、アクセスのためのIDが付与されるが、満16歳未満の青少年にはこのIDが付与されない。IDがなければ11月以降、午前0時から翌朝6時まではネットにアクセスできない仕組みになる。子供が親のIDを使用するのではないかといった懸念がすでに出ているが、その効果についての検証は今後の課題である。

「Rescue School」

・対象は、主に中学生(ほとんどがオンラインゲーム依存の男児)
複雑な家庭問題などで、自信を失っている子どもが多い。

  • 内容は、個人精神療法、音楽・絵画のアートセラピー、陶芸・太鼓・スポーツ・ロッククライミングなど様々。
  • 予算は、すべて国家予算(1名につきおよそ150万ウォン)
  • スタッフは、参加者2名につき2〜3名(大学生やボランティア含む)
  • キャンプ終了後に3〜6カ月のアフターフォローを電話や面接で行っている。
  • 回復率は、およそ参加者の70%が、キャンプ終了1年後も良好な日常生活を送れている。
  • 極的な参加もキャンプ1週間の評価では変化がみられてくる。キャンプ最終日には両親も参加。子どもたちは訓練の成果を太鼓コンサートなどで披露する。親たちの中には子どもの表情の変化や態度に涙を流して喜ぶ人も少なくない。また参加者の中にはもう一度キャンプに参加したい理由から、オンラインゲームを再開する児童もいる。

3回の全国調査

2009年に、2つの部(省庁)が協力して、国内小学4年生を対象に全国調査(対象者60万人)を実施。
2010年に、小学4年生、中学1年生に対して全国調査(120万人)。
2011年に、小学4年生、中学1年生、高校1年生の全国調査(180万人)。

  • 調査使用の尺度は、K-Sccleを使用(回答用紙は1枚)
  • 担任の先生が調査を担当し、結果の集計、児童や両親へ結果説明も行う。
  • 調査目的は、重度の依存児童を見つけて、早期に相談または治療に導入するため。そのため実名で記入。
    (実名の管理は徹底している)
  • 調査で問題ありとされた児童の親へ相談センターのカウンセラーが訪問し両親に児童の治療やカウンセリングの承諾をもらう(実際、承諾は半数ほどしか得られない。2011年の調査では9万人弱が把握された)
  • 依存リスク度別の分類がなされ、その度合いに応じてカウンセリングや心理検査などが行われる。
  • 必要に応じて入院治療が国費で提供される。
  • また「Wee」といわれる教育部管轄のセンターとも連携を図っている。

2011年の調査の結果

  学年 学校
総数
調査
学校数
学生
総数
調査
学生数
リスク学生数・%
High Risk Latent Risk リスク者の総数
人数 人数 人数
調査対象 小4 5,908 5,896 555,799 547,560 9,004 1.64 14,981 2.74 23,985 4.38
中1 3,144 3,135 630,393 617,092 7,777 1.26 22,420 3.63 30,197 4.89
高1 2,280 2,266 674,989 652,443 6,304 0.97 29,269 4.49 35,570 5.45
総計 11,332 11,297 1,861,181 1,817,095 23,085 1.27 66,670 3.67 89,775 4.94
Ministry of Gender Equality & Family 2011.5.11

Myongyji Hospital (Kwandong University of Medicine大学病院)

Hyun-Soo Kim (Professor, Department of Psychiatry)
ソウル市の北西部に位置する京畿道(Gyeonggi-Do:「道」は日本の「県」と同じ)の関東大学医学部付属ミョンギ病院を訪問した。
そこでネット依存の問題に早期から治療に取り組み、政府に「Rescue Camp」設立の提唱し、現在も数多くのネット依存患者・家族らの治療をしているキム教授より話を伺った。また、精神科病棟(44床)の見学を通じて韓国と日本の精神保健福祉の違いなどを学んだ。

韓国のネット依存の背景、ネット依存の実態、ネット依存者の心理、臨床場面でのチェックポイントとアプローチの留意点、治療プログラムの内容、ネット依存のカテゴリー化の試み、他疾患との違い、重複問題・付随する家族問題、予防・教育・治療・回復のポイントなどについて豊富な臨床経験を踏まえてわかりやすく説明を受けた。

Chung Ang University Hospital (中央大学病院)

Doug Hyun Han(Professor, Department of Psychiatry)は欧米の研究者、韓国国内のゲーム開発技術者やプロゲーマーなどと協力して治療・研究をしている。今回、我々は、ハン教授を中心にネット依存に取り組んでいる医師らと意見交換を行った。まず、これまでチュンアン大学病院取り組んできた以下のような治療や研究について説明を受けた。

  • ネット依存患者数の増加の推移・病態象。
  • 「YIAS: Young Internet Addiction Scale 」などを用いた診断。
  • 重複する精神疾患(うつ/ADHD/OCD等)と治療の具体的手法(CBT/VRT等)
  • 重度ネット依存患者10ケースの治療効果。
  • 多職種と連携した治療アプローチ(心理検査・家族教育等)。
  • 地域機関との連携(「IWILL」や「Wee:国のネット相談センター」)。

その後、ネット依存のDSM-Vによる位置づけの可能性、当院と今後、共同して、日本・韓国・中国・台湾・ドイツなどでの国際的診断ガイドラインの作成をしていく可能性について議論した。また、大学医師たちの要望から、樋口院長よりアルコール依存症の治療についてレクチャーを行った。

I WILL CENTER (ソウル市ネット依存相談センター)

ネット依存の予防・教育・治療などを目的に、ソウル市全体を東西南北の4ヶ所の地区に分け2007から2010年にかけて開設された。今回、センターのコンサルタントをしているDongyul Oh氏(前関東大学医学部精神科主任教授、前APSAAR理事長)(国際的な学会を通じての当センターとの親交も深い)の紹介より、ミュンジ大学 (MYONGJI College)構内にあるI WILLセンターを訪問し、当センターの所長で大学の心理教育学を専門に教鞭もとられているChung Soon Rye氏とマネージャーのリーラン(心理士)さんに話を伺った。
センターでは、相談に加え、6〜7セションの教育プログラム、20程の集団プログラムの実施、調査・研究を行なっている。相談方法は、電話及びネット。相談を受け、ゲーム依存でひきこもりになっているケース宅へ訪問するなどのアウトリーチも行なっている。集団プログラムではアートセラピー、絵画、ボードゲーム、調理など。また、幼稚園などに赴いて人形劇などでネットの危険性を伝えたりしている。その外、学校の職員に対して、ネットについての教育トレーナーの養成をしている。

すでに、韓国政府の取り組みとして紹介した小学生、中学生、高校生を対象にした大規模なネット依存に関する調査結果で、依存の問題を抱えるソウル市内の学生は5%、全国では12%との結果が出ている。これは奇異な結果で、毎年同じテストを受けていることなどから、調査内容が対象者に事前に伝わってしまい、実態より低い結果が出ているのではないかと危惧しているとの感想があった。ソウル市内の学生でよりこの傾向が強いのであろうか。リー氏によると「問題の低年齢化がすすんでいて、その親達に対する教育が重要になっている。幼稚園にスタッフが行って親に対して、ネット依存による脳の変化やID利用に際してのリスクなど教えている。深刻な相談者に対しては病院と連携していくことが必要」と語っていた。センターの運営予算は、ソウル市が独自に支出している(1センターにおよそ年間5000万円)
政府はこれまでインターネットついて3〜4の省庁(KADO:Korea Agency for Digital Opportunity and Promotion/韓国情報文化振興院など)がネット依存に対する普及・啓発・教育・依存者への治療などに関連しそれぞれが対策に取り組んでいた。今後、センターは低年齢層への予防・教育に重点をおくといった役割の明確化を図っていきたいと話していた。

Mindheal Clinic (マインドヒール クリニック)

ソウル市内でクリニックを開業しているDongyul Oh氏(略歴はすでに説明すみ)と面談。Oh氏はこれまで、大学にてアディクション研究で続けてきた。2010年3月にクリニックを開業し、依存症者に対して治療に取り組んでいる。Oh氏との対談の中では、インターネット依存のケースは増加している。その背景に家族問題をふくんでいることも多い。現在、集団療法(認知行動療法やスキーマ・セラピーなど)を取り入れその効果を図っている。ネット依存の患者は、モチベーションが低いため1回の受診で終わってしまうことが多いと語っていた。

視察を終えて

日本の医療機関がネット依存についての治療・研究のために来韓することがはじめてだったこともあり、各機関・施設より温かい歓迎を受けるとともに臨床場面の実態、具体的な手法、政策や治療の評価などに関して忌憚ない意見交換と多くの最新資料の提供を受けました。今回得られた知見を日本で活用し、更にネット依存治療の国際的な発展に寄与するため、今回の交流をきっかけにネット依存について国際的な交流の機会を今後もつくっていきたいと考えています。
最後に、各関係機関や要人との調整、3日間を通して移動・通訳などの援助を全面的にしていただいたSungwon Roh先生に感謝いたします。

(文責 前園真毅)

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